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水戸地方裁判所 平成8年(行ウ)10号 判決 1998年6月30日

水戸市柵町一丁目八番一四号

原告

小島晴一

右訴訟代理人弁護士

井坂啓

右訴訟復代理人弁護士

根本信義

水戸市北見町一-一七

被告

水戸税務署長 内田一夫

右指定代理人

齋藤紀子

堀久司

栗原久

飯田信一

五島勇

藤沼正彦

櫻井勉

山田文恵

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告の平成三年六月三日相続開始に係る相続税の更正の請求に対して平成五年一一月二日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、原告が、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を遺贈により取得したとして相続税の申告書を提出したのち、本件土地を相続により取得したことを理由に更正の請求を行ったことに対し、被告が更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたことにつき、本件通知処分の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実等(文末に証拠等を掲記するもの以外は争いのない事実である。)

1  小島利(原告の祖父。以下「利」という。)は、次の各土地を所有し所有権移転登記を経由していたが、昭和四四年六月一二日死亡し、その子である小島耕一(原告の伯父。以下「耕一」という。)は、各土地につき、昭和四六年四月九日、昭和四四年六月一二日相続を原因とする所有権移転登記手続をした。

水戸市柵町六丁目六番一一(以下「<1>土地」という。)

水戸市柵町六丁目六番五六(以下「<2>土地」という。)

水戸市柵町六丁目六番六六(以下「<3>土地」という。)

水戸市柵町六丁目六番六七(以下「<4>土地」という。)

2  その後、昭和五一年二月一日に換地処分がなされ、<1>土地ないし<4>土地の各土地は、水戸市柵町一丁目八番一(以下「<5>土地」という。)となった。

3  小島秀夫(原告の父。以下「秀夫」という。)は、右換地処分に先立ち、昭和五〇年六月二九日、換地予定地(<5>土地)内に建物を建築し、秀夫名義の所有権保存登記がなされ、現在に至っている。

4  その後、秀夫は、昭和五一年一一月二二日死亡した。

5  耕一は、昭和五二年一月二六日、<5>土地を次の各土地に分筆した。

水戸市柵町一丁目八番一(以下「<6>土地」という。)

水戸市柵町一丁目八番五(以下「<7>土地」という。)

水戸市柵町一丁目八番六(以下「<8>土地」という。)

6  さらに、耕一は、平成元年五月一日、<7>土地及び<8>土地を<6>土地に合筆し、同日、合筆後の<6>土地を次の各土地に分筆した。

水戸市柵町一丁目八番一(以下「<9>土地」という。)

水戸市柵町一丁目八番七(以下「<10>土地」という。)

水戸市柵町一丁目八番八(本件土地)

7  耕一は、平成元年五月一八日、<10>土地を小島正夫(耕一の弟であり原告の伯父。以下「正夫」という。)に、本件土地を原告に、それぞれ遺贈する旨の遺言公正証書を作成した。

8  耕一は、平成三年六月三日死亡し、原告は、耕一の相続人に対し、右遺贈を承認する旨通知した(右通知につき乙第二号証)。

そして、原告は、同年一一月二八日、本件土地につき、平成三年六月三日遺贈を原因とする所有権移転登記手続をした

9  原告は、同年一一月二九日、本件土地につき、取得原因を遺贈として、同年六月三日相続開始に係る相続税の申告書を提出した。

10  ところが、原告は、耕一の相続人である小島美喜子、小島義行及び小島美枝子(以下併せて「美喜子ら」という。)を被告として、前記所有権移転登記につき、その登記原因を平成三年六月三日遺贈から真正な登記名義の回復に更正する旨の更正登記手続をすることを求めて、訴えを提起した。右訴訟において、原告と美喜子らとの間で、平成四年八月三一日、被告美喜子らが前記所有権移転登記の登記原因を真正な登記名義の回復とする更正登記手続をする旨の和解が成立した。そして、右和解に基づき、同年一一月一一日、登記原因を真正な登記名義の回復とする更正登記手続がなされた。

11  これを受けて、原告は、同月二〇日、被告に対し、相続税の課税価格及び税額をいずれも〇円に減額すべき旨の更正の請求をしたが、被告は、原告に対し、平成五年一一月二日付けで更正すべき理由がない旨の本件通知処分をした。

12  原告は、本件土地は利から秀夫が相続し、さらに秀夫から原告が相続したものであることを理由に、同年一二月二〇日付けで本件通知処分に対し異議の申立てをしたが、平成六年四月五日、右異議申立ては棄却された。

13  さらに、原告は、同年五月六日、前記理由により、本件通知処分に対し審査請求をしたが、平成八年六月一九日、右審査請求は棄却された。

14  そこで、原告は、同年八月一九日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著)。

三  争点

原告の本件土地の所有権取得原因

(原告の主張)

原告は、秀夫の相続人として相続により本件土地所有権を取得した。

すなわち、本件土地はもと利の所有であったところ、利が昭和四四年一二月死亡した。そこで、利の相続人らが遺産分割協議をした結果、男の相続人は土地を、女の相続人は各五〇万円をそれぞれ相続することとし、秀夫については本件土地を相続する旨の遺産分割協議が成立した。したがって、秀夫は、右遺産分割協議に基づき本件土地を相続により取得した。

そして、秀夫が昭和五一年一一月二二日死亡したことから、秀夫の相続人らが遺産分割協議をした結果、原告が本件土地を相続する旨の遺産分割協議が成立した。

(被告の主張)

原告は、耕一から遺贈により本件土地所有権を取得した。

すなわち、<1>土地ないし<4>土地の各土地はもと利の所有であったところ、利が昭和四四年六月一二日死亡した。そこで、利の相続人らが遺産分割協議をした結果、耕一が<1>土地ないし<4>土地の各土地を相続する旨の遺産分割協議が成立した。

その後、換地処分や合筆、分筆がなされた結果、<9>土地、<10>土地及び本件土地を耕一が所有することとなった。

耕一は、平成元年五月一八日、本件土地を原告に遺贈する旨の遺言公正証書を作成し、平成三年六月三日死亡した。そして、原告は、耕一の相続人に対し、右遺贈を承認する旨通知した。

四  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三争点に対する判断

一  本件土地を秀夫が相続する旨の遺産分割協議の有無

1  まず、証人小島晴の証言及び甲第二〇号証の小島晴の陳述書中には、生前、利が秀夫に対し家を建てるための土地を分けてやると言っていたとの部分があり、原告は、利の死後このとおりの遺産分割協議がなされたと主張する。

しかしながら、右証言等を裏付ける証拠がないばかりか、仮に生前利が右発言をしていたとしても、これをもって直ちに本件土地を秀夫が相続する旨の遺産分割協議がなされたということはできない。

2  次に、原告は、男の相続人には土地を、女の相続人には五〇万円の金員をそれぞれ相続する旨の合意があったと主張し、これに沿うかの如き甲第一五号証(安東せつの申述書の部分)証人小島晴の証言及び原告本人の供述がある。

しかし、右各証拠は、いかなる者が右合意をしたのかという点及びいかなる者がいかなる土地を相続するのかという点について明らかではなく、曖昧である。その上、男の相続人の一人である児島利器については、土地を相続したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、証人小島晴の証言中には児島利器については土地を相続していないとの部分があることからすれば、結局、右合意があったと認めることはできない。

3  そして、争いのない事実等1及び原告本人尋問の結果によれば、<1>土地ないし<4>土地の各土地については、相続を原因として利から耕一の単独名義に所有権移転登記がされ、原告への遺贈までは耕一が固定資産税を支払い、秀夫や原告には負担を求めていないことが認められ、また、利からの相続税も耕一が負担していたものと推認され、さらに、これらの事実からは耕一が右各土地を単独で取得したものと推認されるから、原告主張の遺産分割協議があったとするには疑問がある。

この点に関し、甲第一一号証(甲第一八号証の八)中には、利が所有していた土地につき、「現地が大変乱雑」で「小島耕一、小島正夫、小島秀夫の各相続による登記が、できず」「やむなく小島耕一名義で相続登記を済ませ」たとの記載があり、このことから、原告は、秀夫が本件土地を相続する旨の遺産分割協議が成立していたと主張する。

たしかに、甲第一一号証中には右記載があるものの、右記載からは秀夫がいかなる土地を相続するかという点につき明らかではなく、秀夫が本件土地を相続する旨の遺産分割協議があったとまでいうことはできない。

4  また、争いのない事実等3のとおり、秀夫が昭和五〇年に本件土地上に建物を建築し現在に至っているのであるから、原告は、そのころには本件土地が特定された上、本件土地を秀雄が相続する旨の遺産分割協議が成立していたと主張する。

しかしながら、争いのない事実等3、5のとおり、秀夫は、昭和五〇年六月二九日、<5>土地上に建物を建築し、その後、昭和五二年一月二六日、<5>土地は、<6>土地ないし<8>土地の各土地に分筆されている。右経緯と甲第一三号証の四、乙第一二号証からすれば、右建物は、<7>土地に相当する部分に建築されたものと解するのが相当である。その後、争いのない事実等6、7のとおり、平成元年五月一日、<7>土地及び<8>土地は、<6>土地に合筆された上、改めて、<6>土地は、<9>土地、<10>土地及び本件土地に分筆されている。そして、乙第一二及び第一五号証によれば、<7>土地と本件土地とはその形状及び地積が同一ではないことが認められる。以上のことからすると、秀夫が建物を建築した昭和五〇年ころは、右建物が建っていたのは<7>土地上であって、この<7>土地は本件土地とは大部分重なってはいるものの、本件土地とは同一ではないことから、いまだ本件土地として特定されていなかったと解すべきである。

この点につき、原告は、昭和四九年ころ、本件土地を約一メートル土地盛りをし、本件土地を特定し、現在に至っていると主張するが、甲第一八号証の四には平成九年当時本件土地が約一メートル土地盛りされているかの如き様子が窺えるものの、右事実を裏付けるに足りる証拠はない。

5  さらに、争いのない事実等10のとおり、原告が美喜子らに対し本件土地の更正登記手続を求めた訴訟において、美喜子らが登記原因を真正の登記名義の回復とする更正登記手続をする旨の訴訟上の和解が成立したが、原告は、このことをもって、秀夫が本件土地を相続する旨の遺産分割協議が成立したと主張している。

しかしながら、右訴訟上の和解の当事者は、秀夫の相続人たる原告と耕一の相続人たる美喜子らであって、利の相続人でないばかりでなく、訴訟上の和解とは、訴訟の係属中当事者がその主張を互いに譲歩して訴訟を終了せしめる旨の期日における合意であるところ、必ずしも訴訟上の和解の内容が事実に一致するとは限らないのであるから、前記訴訟上の和解が成立したからといって、前記遺産分割協議が成立したということはできない。

二  以上のとおり、本件のあらゆる証拠を総合的に考慮しても、なお、利から秀夫が本件土地を相続する旨の遺産分割協議があったと認めることはできないのであるから、結局、秀夫から本件土地を相続したとする原告の主張を認めることはできない。

第四結論

よって、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

(裁判長裁判官 矢崎正彦 裁判官 坂野征四郎 裁判官 松下貴彦)

物件目録

所在 水戸市柵町一丁目

地番 八番八

地目 宅地

地積 三五四・七六平方メートル

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